カメラ・ディレッタント

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野鳥撮影とカメラ偏愛記

『天気の子』に想う新海誠の新機軸

先週の金曜日、長引く梅雨空の下で『天気の子』を観てきました。

tenkinoko.com

台風が去る週明けは快晴が続く予報だったので、関東でも梅雨明け宣言が出される前に、作品とのシンクロニシティを狙って滑り込みで劇場に足を運びました。

君の名は。』の大ヒットを受けて、各種のタイアップで『天気の子』の宣伝をあちこちで見かけますが、公開から1週間経った金曜の夜に、地元のシネコンでは空席が目立ちました。

夏休みシーズンだから日中が盛況なら良いのですが、このままだと興行収入が前作を超えるのは難しい印象を受けました(´・ω・`)

興行収入の大小で作品の良否は決められないので、以降は個人の主観で考察した事を綴ります。

ネタバレは少なめですが、映画を未鑑賞の方は、見終わった後に再訪して頂けると有り難いです<(_ _)>

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© 2019「天気の子」製作委員会

新海誠作品の鑑賞履歴と心構え

新海誠作品は『ほしのこえ』を皮切りに『雲のむこう、約束の場所』と『秒速5センチメートル』を劇場で鑑賞し、熱が醒めた頃の『星を追う子ども』と『言の葉の庭』はレンタルDVDで済ませていました。

新海誠作品の集大成となった『君の名は。』には熱狂的にハマり、関連書籍を読み漁ってBlu-rayを購入しました。

日本映画として歴代2位の興行収入を記録した『君の名は。』の後を受けた作品なので、周囲の期待は過剰なほどに盛り上がっていましたが、個人的には「引出の中身を出し切った後の仕切り直しとなる1作目で、新機軸をどれだけ打ち出せるか」という点に着目して、やや醒めた視点で鑑賞に臨みました。

背景美術の進化

新海誠作品と言えば「緻密で美しい背景美術」が特筆されますが、本作でも背景美術の圧倒的な情報量に目を見張りました。

今回は背景に3DCGを多用して、キャラクターを軸にしたカメラの回り込みや、高層ビルの林立する遠景で立体感が強調され、裸眼立体視に近い奥行きを感じる事が出来ました。

いっそ3D上映で観てみたい…と思いましたが、3DCGの背景はともかく、手描きのキャラクターで立体映像を造るのは視差の作画が困難なので、実現は難しそうです。(フルCGでセルルックのアニメなら3D上映は比較的容易かも)

キャラクター

前作に引き続き、キャラクターデザインに田中将賀がクレジットされていますが、作画監督が全体的にリファインしたようで、田中将賀っぽさは薄くなっていました。(微妙にひん曲がった顔の輪郭とか、再現が難しいですよね…)

君の名は。』では本編の作画監督ジブリ出身の安藤雅司が担当し、田中キャラをジブリっぽくアレンジした事で、一般層が受け入れやすいキャラクター造形になっていた気がします。

とらドラ!』の頃から田中将賀のファンなので、10月に公開される『空の青さを知る人よ』で欠乏した田中成分を補充するつもりです。

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ストーリー展開

叙情的なプロローグとダイナミックな嵐の描写で物語は幕を開きます。

主人公の新生活を描くパートは今までに無くハイテンポな展開で、どちらかと言えばゆったりとした空気の流れる過去作とは一線を画していました。

全体的に大きな山場は限られるけれど、ダレる場面は少なく感じたので、緩急のバランスは取れていたと思います。

水のような魚や、空中に溜まる水の現象など、説明が無く投げっぱなしのエピソードも散見されたので、緻密に構成された過去作と較べると、少々荒削りな印象を受けました。

作品の舞台

作中に登場する風景はいずれも見知った自分の生活圏だったので、聖地巡礼したくなる…と言うよりは「あ~ここ、あの場所だよね」という既視感を覚えました。

新宿では新卒入社した会社に4年勤め、池袋には14年勤務した会社があり、田端は通勤の乗換駅で、ヒロインの家があると思われる界隈は何度か歩いた事がありました。

詳細な聖地巡礼のレポートが多数公開されているので、それらの情報をガイドに、作品の舞台を再訪したいものです。

ストーリー構成

  1. 少年と少女が出会い
  2. 理不尽な大人達に翻弄され
  3. 中盤のアクシデントで二人が引き離され
  4. クライマックスに少年と少女が再会する

という、いつもの新海誠作品と変わらない筋立てですが、主人公の選択した決断の後に描かれる後日談が、不穏な空気と終末感の漂う閉塞的な世界となっており、過去作の「苦さを残しつつも概ねハッピーエンド」な終わり方とは異なる方向性を示していました。

セカイ系」の定石通りにストーリーが展開しましたが、主人公の選択が世界を変えてしまった後も、世間の人々はたくましく生活している…という描写に「個人の主観で世界が一変しても、世の中を根底から覆す事は出来ない」と自分は解釈しました。

ともすれば、利己的に映りそうな主人公の選択も、大局的に見れば些細な事でしか無い、という指針を示した所に、新海誠作品の新機軸を感じ取る事が出来ました。

夏休みの話題作で、ロングラン上映が予想される本作ですが、時間が経過すれば周囲のネタバレを目にする機会も増えるので、なるべく早めに劇場へ足を運ぶ事をオススメします。